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松岡徹のバルセロナ日記 08


2004.12/1


お元気ですか? 早々と新しい日記をお届けいたします。
友人のリュイスが次のアトリエに決めた場所を見に行ってきました。場所は9月に自転車で行ったアルブシアス (バルセロナ日記1で行った田舎) のさらに山中奥深く。40分ほど山の中を、リュイスがそのために買った4WDの車で山越え谷越えしながら行きました。とても普通車では行けない悪路。車一台しか通れない山道は迷路のようで、道の分かれに印された青いペンキの目印がなかったら、絶対にたどり着けないし帰る事なんて絶対無理! と思え、ひとり車の中で不安になっておりました。途中にはコルクの森があり、コルクの材料の部分となる外皮だけをちょうど取りやすい高さまできれいに取ってあって、人気のない森なのにとても不思議な光景でした。
 
ようやく到着してそこにあったのは、正真正銘の森の一軒家でした。いつも雑音の中にいる僕にはシ〜ンという音が聞こえてきそう。周りに人の気配はなく静寂が流れる、とはまさにあの事です。大きな松の木 (日本の松とはきっと違う種類。妙にまっすぐで大きな松ボックリが木の幹についている。) に囲まれたその家は、石造りで暖炉がありました。
 
さっそく村で買って来たブティファラ (大きなソーセージ) とハムを焼き、パン・デ・トマテ (少し焼いたパンにトマトをすりつぶしながら塗りたくり、うえから塩をふりさらにオリーブオイルをたっぷりかけて出来上がりのナタルーニャおなじみの簡単料理) とチーズを用意し、アルブシアスのできたてのワイン (まだ若い赤ワインでジュースのようにぶどうの味が新鮮でたまらない。日本で流行のボジョレーヌーボーに近い味と思ってください。でもこれはペットボトルにノーラベルで売ってます。めちゃくちゃ安い。) と一緒に食べました。
 
そうそう、栗がいっぱい落ちていたのでそれも焼いて食べました。「大自然の小さな家」で味わうおいしい食事に大満足。久しぶりに静かで落ち着いた時間を過ごしました。この家をこれから少しずつ掃除して、制作しやすく改装していくのだそうです。ここで生活しながら制作をするにはまだまだ時間がかかりそうだから、たまには僕も手伝おうかと思っております。でも想像しただけで、僕には一人きりでここで暮らすなんてできない。夜はきっと寂しすぎる。家には電気もなく頼りはロウソクの明かりだけ。前の住人の気配が家具や食器に残っていて……。こんな小心者には無理だと自分の弱さをまたもや突きつけられました。ただ、一人で栗を拾っているときに、人がいない、と感じる事がこんなにすっきりとしたものだとは思いませんでした。半径何十キロはきっと誰もいない (友人はいるけど) 。頭が冴えてくる感覚を覚えました。
 
まだ昼間で明るいのに暗闇にいるような、自分がまったく異質な物体に思えて押しつぶされそうな気がしました。いや、周りが避けているような、うーんうまく言えないな。それはカタルーニャ語の会話の中で一人でいるときの孤独感とはまた違った何か、異物感でした。昨年、個展で行ったバングラデシュで感じた「強烈な緑色をした巨大な自然がどこまでも入り込んで来てそのなかに小さな人間が混ざっている感じ」ともぜんぜん違う。もちろん日本の森とも違う。自然も、場所によってその意思というか性格がやっぱり違うのではないかと、だからそこに生きる人間も違う。これって考え過ぎでしょうか。当たり前と言えば当たり前の話なんですけど。まあ、もうちょっと考えてみます。ともかくいい体験させてもらいました。
 
そんな冬になる前の静かな森から、雑音と面倒が山のようにある現実に戻ってきました。ああ、よかった戻って来られて……。ここが僕の生きている場所なんだなぁ、とあきらめではなくてむしろ安心感を感じたりして。今日は美しい森で、おいしいものを食べた話でした。ではまたお便りします。
 

 
 
 
 コルクの森。童話の森みたいでした。
 
 
 
 
 
 
 
 大自然の小さな家。といってもかなり大
 きな家です。ハイジが飛び出して来そう
 でしょ?
 
 
 
 
 
 
 今年の新ワイン。お酒の苦手な僕でも
 おいしくいただける。と松ボックリ。
 
 
 
 
 
 
 暖炉でお肉をジュージュー焼いている
 図。煙突から立ち上る煙が静かな森に
 流れてゆく様子が美しかった。

 

 
 
    

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