Office Matching Mole on the Web/週刊モグラ屋通信 18



 週刊 モグラ屋通信 第43号 2001.9/6  


内藤です。オフィスマッチングモウルが企画・制作している三河・佐久島アートプラン21 『佐久島体験2001 祭りとアートに出会う島』の第二弾、 太鼓祭り が10月6日(土)、7日(日)の二日間にかけて開催される運びとなりました。同じ6日には 小川信治展 (11月4日(日)まで佐久島弁天サロンにて開催)がスタートします。 太鼓祭り祭り の詳細は、来週中にも報告するとして、今回は、このアートプロジェクトに関わるふたりの作家のお話。

まず、 太鼓祭り と同時にスタートする展覧会で作佐久島の島民とのコラボレーション作品を発表予定の 小川信治 。個展に先立って、7月21日にワークショップをおこないました。小川さんはまず、自らの作品を参加者に見てもらいました。このワークショップによって、島民といっしょにつくる作品を少し、イメージしてもらうためです。

ワークショップでは、次に小川さんから佐久島の島民に佐久島の白地図が配られました。そこにそれぞれの「佐久島おすすめスポット」を地図に記入してもらうために。住み慣れた島、見慣れた風景――。あらためて問いかけられる島の魅力に、最初はとまどいながらも、やがて、大好きな景色、お気に入りの場所が次々と地図に書き込まれていきました。 ◆(写真上左:白地図を手に島のことを語る島民/写真上右:インスタントカメラを手に、外に飛び出していく子どもたち)
 

 次に、魅力を感じる島の風景を記録するため、各自にインスタントカメラが渡されました。子どもたちは、カメラを片手に勢いよく外へ飛び出していきます。その10日後、島の風景が収められたカメラは回収され、小川さんの元へ送られました。撮影された佐久島は、いろんな顔を見せてくれます。海ばかり撮り続ける人、島の人々の生活を写した人、驚くほど島中のあちこちを回って撮影した人……。写された風景とともに、それを写した島民の視点がまっすぐに伝わってきます。小川さんは、その写真を元にペン画を制作することになりました。

いったいどんな作品になるのか? それは10月6日から始まる小川信治展でのお楽しみ――なんですが、ちょっとだけご報告。小川さんに写真を送って数日後、最初に出来上がった作品をスキャンした画像データが添付書類で送られてきました。それは、ペン画を丁寧に彩色したもので、うつむく子どもの背景の海に筒島が浮かび、その上にはふたつの三日月が浮かんでいました。ワークショップに参加したのは30人近く。最初の予定では参加者全員の写真を一枚づつペン画にするという話だったので、「こんなに凝ったことをして、嬉しいけど大丈夫なの?」。佐久島での個展の前には、京都での個展があり、小川さんはとても忙しいはずです。ちょっと心配になって小川さんに電話してみると、なんだかとても楽しそうでした。

小川さんいわく、「なんだか新しい展開になりそう」ということで、最初は黒インクで彩色の予定はなかったのですが、島民の撮った写真に触発されて、次々とアイデアが浮かんでくるそうです。これは、企画側としてはとても嬉しいことです。島がスペースを提供するだけだったり、アーティストも提供された場所を利用するだけだったりしたら、美術館でもなく画廊でもなく、あえて地域社会の中で作品を発表することの意味は少ないでしょう。「現代美術」という「方言」が通じない場所で、どうやったら人々と作品を通してコミュニケーションをはかることができるか? 小川さんは「親しみやすい作品でありながら、いかに現代美術の作品としてのクオリティをきちんと提示できるか、これは自分自身が今まで経験したことのない挑戦ですね」と話してくれました。  ◆(写真上左:海の中に入って写真を撮る島の子ども/写真上右:島を歩いて風景を撮影する小川信治)
 

 佐久島の島民が自分たちの住む島を見つめ直し、それを写真というかたちに残し、アーティストは、島民の視点(写真)を通して、佐久島を見つめ、作品化する。佐久島を舞台に制作したアーティストと島民とのコラボレーション作品となったこのシリーズを、小川さんは「PERFECT SAKU ISLAND(パーフェクト・サクアイランド)」と名付けました。この作品は10月6日(土)〜11月4日(日)まで、弁天サロンにて展示されます。アーティストと島民、アーティストと企画者、企画者と島民――。さまざまな立場を超えて、アートは社会とどうコミュニケーションをはかることができるか? そのひとつの答えが、あなたにもこの展覧会で見つかるかもしれません。とりあえず、現在、佐久島での個展に向けて、小川さんは「絶好調」なのでした。乞うご期待。

さて、9月2日。 ノブギャラリーでの個展 オープニングのため岡崎市に来ていたアーティストの 平田五郎 と、佐久島へ向かいました。平田さんは、佐久島で3月に個展を予定しているので、今回は、そのための下見です。展覧会のために数日間まともに寝ていなかったというわりには、島と聞いたとたん、水着をもってくるあたり、けっこう元気かも。事前に「いっしょに泳ごう」といわれてきたんだけども、私も池田も水着を持っていかなかったわけで、ものすごく非難されましたよ。しかし、私が水着を持ってこなかったことに関してはノーコメントで、池田が持ってこなかったことに断然抗議するとは、平田さん、それって差別じゃあ? もちろん、下見のための島をめぐり、展覧会のためのアイデアもいろいろ浮かんだそうで、今後の展開がとても楽しみです。 ◆(写真上左:しかたなくひとりでもくもくと泳いでいた平田五郎)
 

現在進行形の仕事
『佐久間町45周年記念企画展 』 (展示企画・制作)
『代官山インスタレーション 』ウェブサイト (制作)
・ 佐谷画廊ウェブサイト 『佐谷和彦の仕事場』 (企画・制作・運営)/8月22日更新
・ 三河・佐久島アートプラン21 『佐久島体験2001 祭りとアートに出会う島』 (企画・制作)



Top             Bottom



 週刊 モグラ屋通信 第44号 2001.9/27  


内藤です。9月7日。始発に近い新幹線で東京へ出張。某社でプレゼン1件、某所で打合せ1件。よれよれになりながら、茅場町の タグチファインアート 中川佳宣 ― 農夫の壺 ― へ。オープン以来、何度もお誘いいただいたにもかかわらず、全然顔を出さなかったのでディレクターの田口さんに「薄情者」呼ばわりされかけていたのでした。私は薄情者ではなく、東京へ行く経済的な余裕のない単なる貧乏人なので誤解しないでぇ。オフィスマッチングモウルはいつも経費節減がモットーなのです。でも、行くときはいくよ。というわけで、 中川佳宣 ― 農夫の壺 ― のオープンに合わせて、他の仕事のスケジュールを組んだのはここだけの話。さて、しかし、やっとかなったスペース訪問は大変感慨深いものでした。

私と田口さんの出会いは、私が ノブギャラリー 、田口さんが 横田茂ギャラリー でそれぞれアシスタント・ディレクターをしていた頃のことで、6〜7年前のことだったでしょうか? ふたつのギャラリーに交流があったわけではないけれど、私たちはそれぞれ、同じ作家に注目していたのです。それが、中川佳宣。私は、この決して派手さはなく、流行に乗りそうもない、けれど確かな作品を作るアーティストに惹かれ、貸し画廊で展覧会があるたびに大阪に通っていました。彼は、私が画廊に勤めて、ボスに「この作家の展覧会をしましょう!」と提案した最初で最後のアーティストだったのです。中川の企画画廊での最初の個展を開催できたのは、今でも私の誇りです。また、当時あまり売れていない彼のすぐれた作品を購入するのも自分の使命だと考えた私は、給料を彼の作品購入に注ぎ込みました。が、残念ながら当時も今と変わらず財力に乏しかった私の野望はすぐに挫折。しかし、私に代わって中川の折々の代表作を購入し続ける情熱と経済力を持ったコレクターを見つけ、その使命を肩代わりさせることができたのは、ギャラリスト冥利に尽きるといえましょう。私が死んだら、私の手元にある中川作品は、そのコレクター氏にさしあげる約束をしています。これで思い残すことはなにもない……ではなくて、田口さんの話だったわ。そんな中川の作品に注目したのは、将来は独立の計画を持ち、その時の作家をひそかに探していた田口さんなのでした。

私と田口さんと中川佳宣は、ほとんど同じ年。同世代のディレクターが、しかも東京で中川作品を取り扱い続けてくれるということは、私にとっても嬉しく心強いことでした。その田口さんが独立してオープンしたスペースは、茅場町の川沿いにある昭和初期の古いビルにあります。スペース選びから、室内のつくり、そして作家のチョイスと趣味の良さが炸裂。スペースに置かれた机に作品を広げて、1点1点、本を読むように作品を見るのは静かだけれども確かな喜びでした。『中川佳宣 ― 農夫の壺 ―』は10月20日まで。詳細は タグチファインアート のウェブサイトでご覧ください。這ってでも行くべし。


というわけで、怒涛の東京日帰り出張の翌日。9月8日は午後から名古屋港ガーデン埠頭にある アートポート へ。8日、9日は、アーティストの藤浩志さんの監修の元、名古屋の若手アーティストと地域の人々の協力によってペットボトルでつくられた ビニプラ・アート・カフェ がオープン。そのアート・カフェで、2日間に渡って トーク イン ビニプラ・アートカフェ が開催されました。メインゲストは、8日にアートディレクターの千葉由美子さんと金沢21世紀美術館開設準備室学芸員の黒沢伸さん、翌9日はアーティストの津田佳紀さん、中ザワヒデキさん、美術評論家の市原研太郎さん。それぞれの立場から「アートセンター」について語られました。その8日のトークの前座としてワタクシ、オフィスマッチングモウルの内藤と、秋吉台国際芸術村キュレーターの原田真千子さん、ISEA/電子芸術国際会議2002名古屋事務局長の立松由美子さんがそれぞれ30分ほど話をしました。


前座仲間の他の2名と違って、とにかくプレゼンが大の苦手というか進歩なく話下手の私のもたもたした話を、聞いてくださった方はありがとうございます。話したのは『佐久島体験2001 祭りとアートに出会う島』について。8月の 弁天祭り に佐久島を訪れてくれたトーク・イン・ビニプラ・アートカフェ司会の高橋綾子さんが撮影した祭りとアート・プロジェクトのビデオを見ながら、ざっと概要を説明しました。 ◆(写真上左:アートカフェで佐久島のことを話すオフィスマッチングモウル内藤。ビニプラ・アートカフェでは、机も椅子もすべてペットボトルでできています/写真右:トークの司会者、名古屋芸術大学講師の高橋綾子さん。首に巻いたアートポートのオリジナル日本てぬぐいがステキ)
 

私は話の中で「アートによる地域活性化事業は、初めにアートありきではない」という、聞きようによっては物議をかもす発言をしたので、それに対して会場にいたアーティストの 藤浩志さん からするどいツッコミをいただきました。アートプロジェクトの企画や制作・運営に当たって、私たちを支える強い動機がアートやアーティストへの信頼であることは言うまでもありません。けれど、私があえて「はじめにアートありきではない」という時、そこには、地域社会に暮らすたくさんの人たちの抱えるたくさんの問題を、「すぐれたアートを提供する」という満足感から、過小評価したくないと考えるからです。それは、まさに私たちが「地方に暮らし、地方の問題を切実に感じている」からです。だからこそ、「展覧会」という名の元に、美術館や画廊やアートスペースと同じような姿勢で企画してもいいのだろうか? 「観客」という名の元に、美術館や画廊の多く存在する都会と、そのような施設がほとんどない地方の人たちに同じように美術作品に向かい合うことを求めてもいいのだろうか? 取り組むべき課題を前に、私たちは「いい作品でさえあれば」などと悠長な態度をとるわけにはいかないのです(にもかかわらず、いい作品でなければ意味がないというのも事実)。私のつたない説明で、どのくらい藤さんにこのことを伝えることができたか、正直なところわかりません。でも、ほんの少しだけは伝えることができたのではないか? と思っています。私たちが大切に思っていることの一部は。

その後、千葉由美子さんと黒沢伸さんのトークを聞き、名古屋港から吹いてくるさわやかな風に吹かれながら、ビニプラ・アート・カフェで楽しいひととき。夜になると、ペットボトルのテーブルに仕込まれた明かりがついて、なかなかに美しいものでした。私は、アーティストのマネジメントの仕事をしている、古い画廊仲間(彼女は桜画廊出身)の戸田理佳子さんとふたりで、ガーデン埠頭界隈でラーメンを食べながら、お互いの仕事の話で楽しく夜はふけていきました。 ◆(写真上左:アーティストの藤浩志さん)
 

翌週は、打ち合わせのため2度佐久島へ行き、会議と現場の下見。9月17日には、『佐久間町45周年記念企画展 』のオープン前日の仕込みのため、池田といっしょに静岡県磐田郡佐久間町役場へ。町役場のホールにて半日展示作業。この仕事の担当は池田なので、私が現場に出向いたのは初めてでした。作業着姿で看板屋さんに混ざって材料の運び込みを手伝っていたので、池田が紹介してくれるまで、役所の人は私のことも看板屋さんのスタッフと思っていたみたいでした。いや〜、よく間違われます。佐久間町は深い山に囲まれ、豊かな自然に恵まれたところ。山もまた新鮮でいいなぁ、と感激。佐久間町は、地域の活性化に「佐久間町に伝わる多くの民話」や「祭り」という伝統的なものと、「音楽」という新しいものを同時に採用しています。私たちの仕事とも通じる興味深い事例。ここで私たちは、美術の仕事ではなく、佐久間町の伝統や文化活動を紹介するための展示のコーディネートをしています。オフィスマッチングモウルは、知識や経験のすべてが仕事。ここでは「展示」のノウハウと有能なデザイナーという私たちの人的ネットワークを活用しました。展示はなかなか好評で、役場の方には「都会っぽいですねー」と言われました。いや〜、それほどでも。なにはともあれ、ほっと一息なのでした。
 

現在進行形の仕事
『佐久間町45周年記念企画展 』 (展示企画・制作)/10月10日まで
『代官山インスタレーション 』ウェブサイト (制作)
・ 佐谷画廊ウェブサイト 『佐谷和彦の仕事場』 (企画・制作・運営)/毎月2回更新
・ 三河・佐久島アートプラン21 『佐久島体験2001 祭りとアートに出会う島』 (企画・制作)/9月27日更新



     
モグ通 BEFORE     モグ通 NEXT



 週刊モグラ屋通信 目次へ    TO HOME  

 オフィス マッチング・モウルへのご連絡、お問い合わせは E-mail/office@m-mole.com へお気軽にどうぞ