Office Matching Mole on the Web/週刊モグラ屋通信 30



 週刊 モグラ屋通信 67号 2003.5/8  

ご無沙汰いたしました。 『平田五郎展 佐久島空家計画2/大葉邸』 のレジデンスと展覧会で怒涛の2ヶ月間過ぎ去り、気がつけば三河・佐久島アートプラン21も、3年目を迎えており、さらに5月10日からは 木村崇人展『佐久島で地球と遊ぶ』 がスタートしようとしております。一体いつになったら一息つけるのだろうか、息継ぎをしないとおぼれてしまう――現時点では息継ぎなしの潜水状態が得意技となったオフィス・マッチング・モウルの内藤です。
 
中部地方では昨年度、テレビで佐久島が紹介される機会がけっこうありました。放送直後には、ちょっとびっくりするような観光客の数。テレビっていうメディアの威力って恐ろしいものがあります。さりながら、そういう番組のほとんどは、アートをすっとばしてあいも変わらず「海の幸特集」みたいな…(涙)。そんな中、3月末にアートプラン21でおこなった 「佐久島体験 ショートステイ2002」 は、まぁ、オフィス・マッチング・モウル企画でありながら、アート色がほとんどなかったのが幸い(?)したのか、ローカルエリアの放送ではありましたが、NHK名古屋放送局が生中継で紹介してくれました。
 
私としては、佐久島がたくさんの人に知られ、結果的に島を訪れる人が多くなることが、まず大切だと思っています。アートじゃなきゃ…というような、硬いことは言わないの。訪れる人の何割かは佐久島的なもの(施設として提供できる娯楽がない。その代わり、地図を片手に自然や古い家並みを歩き自分自身で楽しみを発見できる)を好きになるだろうし、そういう人はアートにも反応する確立が高く、さらに言えばリピーターにもなりやすいので、とにかく海を渡ってもらわないことには始まりません。さまざまなメディアが取材に来る場合でも、アートを大きく取り上げてもらえればとても嬉しいけれども、そうではない視点で佐久島を紹介してもらうのも大切なことだと思っています。
 
そんな中、ふたつの著名な(!)雑誌の取材が佐久島にやってきました。これがもう、どちらも「佐久島とは永遠に縁がないだろう」というほどの洒落た雑誌なのです。嬉しいことに一誌はアートを中心に紹介してくださるとのことで、こちらに関しては、詳細が決まり次第お知らせいたします。「佐久島のレストラン、ショップを5軒ほど紹介していただけますか?」という問いかけに対して、私は「……残念ながら、レストランというものはありません。食堂が2軒あるだけです。ショップは……、島のおばあちゃんたちが丹精込めて作った野菜の無人市とかじゃ駄目…ですよね?(←つまりショップなんて小洒落たものは存在し得ないのである)」という泣き笑いエピソードもございました。私なんて私なんてねぇ「直島と間違えて来ちゃったんじゃないんですか?」なんて自虐的な発言をしちゃったもの。広告はほとんどが高級ブランド品というその雑誌のライターの方も、本当に困っていらっしゃいましたよ。私も途方にくれましたが…。でも、どんな風に佐久島を取り上げてくれるのか、どきどきしながら楽しみにしています。
 
そしてそして、現在全国の書店で発売中のとある雑誌にカラーで6ページに渡って佐久島特集が組まれているのを昨日知った私たちは騒然としてしまいました。アートは取り上げられていないため、取材に関しても小社や役所に連絡がなかったので、書店に並んではじめて知る驚愕の事実! というやつでした。それがまぁ奥さん聞いてください、なんとなんとその雑誌というのが『CG (CAR GRAPHIC)』なんでございますのよ。いわゆる「カーグラ」ですの。車の雑誌と佐久島…、ある意味、これ以上にシュールな企画はないかもしれない。そういう意味でこの企画自体がアートっぽいかもしれない、などと思ってしまうほどに鮮やかな掬い投げだったなぁ…。この企画した人って偉いなぁ。前述の他雑誌取材のカメラマン氏(美形)も「だってこの島フェリーで来られないじゃないですか」とかなり驚いていたのも無理はないです。関係者一同みんな驚いてます。
 
佐久島を訪れたことのない人に私たちの驚きをどう伝えたらいいのでしょうか? 雑誌によれば島に存在する軽自動車は現時点で68台だそうな。ここには、私たちの所有する通称「モグラ号(=当然軽自動車)」は含まれていないのが残念ですが、つまり他は50ccのバイクと、改造耕運機(笑)っくらいのもんだ。普通車なんてものは存在しない。なぜならば、普通自動車がなんとか走ることのできる島のメインストリート(通称1号線。でも2号線はない)は直線距離にして2キロ。それ以外は道路というより路地なのです。もし、佐久島に普通自動車の、それもセダンタイプのが走っていたら、それはもうパフォーマンスっていうか、それ以外にいいようがないというほどの状況です。島の路地は自動車教習所も真っ青の「S字カーブ」と「クランク」の連続。しかもこの「S字カーブ」は教習所のに比べて格段に狭く、あろうことか両側が溝だったする。「クランク」にいたっては両側が壁だったりして、結果的にものすごくドライビング・テクニックが向上するね。うん。毎日が自動車教習。
 
『CG』の話に戻ると、特集のは「大海原に抱かれて 島で暮らす人とクルマの物語。これが第二回目なので、連載企画なのですね。離島といっても、佐久島のような信号もないという島ばかりではないわけで、これはこれでそれほど荒唐無稽な企画でもないのだけれど、そこで佐久島を取り上げたのがすごい。実際の記事は、車のことはあまり書くことがないので(笑)、その分、島のことをライターの目で丁寧に見ていて、写真もとてもいいんです。旅雑誌では決してできないだろうし、アートがテーマになってもできない、こういう記事はうれしいですね。記事の中には大葉邸に入っていく路地(でも大葉邸は載っていませんが)も写っているし、私たちが佐久島滞在の基地にしていて、平田五郎がレジデンスで滞在もした通称「合宿所」の入り口が写ってました。取材の人は、島民に車を借りて3日かけて島をまわったそうだけど、もし合宿所の入り口まで車で入ってきていたとしたら、さすがです。私も池田ももっと手前の空き地に車を止めるもの。この路地の恐ろしさを知らずにうっかり踏み込んで脱輪したのは私です。ちなみにアーティストの松岡徹は、その先の恐怖のクランクで切り返し地獄に落ちたそうな…。しかし、島民はまったく意に介さず、すいすいと結構なスピードで切り抜けていくから脱帽するしかありません。
 
記事にはたくさんの風景や路地の写真が載っていて、朽ち果てた壁とか、装飾的な瓦屋根とか、それがディテールだけ写っていたりします。その壁や屋根がどこにあるか、全部分かってしまう自分が怖くもありますが、同時に、魅力を感じて記憶にとどめているいくつかのささやかな場所を、3日しか島にいないカメラマンがしっかりと写し取っているのは、興味深くもありました。以前画廊にいた頃、アメリカ人のアーティストを車に乗せて走っていると、古い工場の看板の錆びた部分を喜んで撮影していたことを思い出します。車で通り過ぎるような短い時間に、いつも私が目に留めて見ていたお気に入りの看板を、この人はちゃんと見つけてしまうんだなぁ…って、不思議な気持になったことを。つい、独白してしまいましたが、カーグラでは、アートに関しては取り上げられていません。けれど、私が惹かれる佐久島の何かが、そこにありました。いろいろな視点で見つめる島。そういう多様な視点の存在が、大切なのだと思っています。
 
で、やっぱり私たちはアートな視点。5月10日からはいよいよ木村崇人展 がスタート! 島内4ヶ所で作品が「体験」できます。先日の設置の折には、アーティストは海の中に入っての作業となりました。一番干潮の時刻を狙って作業したのですが、途中で満ち潮になってきて、これがあれよあれよという間に…。そういう苦労の甲斐あって、驚きのある作品になっています。同時開催の 「弘法巡り+アート・ピクニック」 では、佐久島に点在する弘法さんの祠(かつては八十八ヶ所あった。現在は五十数ヶ所)を巡ることで島の昔を知り、木村崇人の4点の作品と平田五郎の大葉邸というアートを巡ることで現代を感じよう、という企画しておいて自分でいうのもなんですが楽しいイベントです。これは、スタンプ・ラリー形式になっていて、ポイントは10ヶ所。海あり、山あり、迷路のような路地があり、さらにとどめでアートあり。参加者を飽きさせません。たぶん。
 
展覧会、イベントともに7月20日までおこなわれますが、初日5月10日には木村崇人による作品の説明会、「島びと交流会」(オープニング・パーティーのこと)もあります。みなさま、ご多忙のことと存じますが、ぜひぜひお運びくださいますよう、伏してお願い申し上げます。島を歩くのに、一番気持いいかもしれない季節です。無料配布するスタンプ・ラリー用のシートも、スタンプも、かわいいんだな、これが(自画自賛)。では!
 
現在進行形の仕事
三河・佐久島アートプラン21 『佐久島体験2003 祭りとアートに出会う島』 企画・制作/5月8日更新
岡崎市シビックセンター 内田修ジャズコレクション 展示コーディネート/継続中 ウェブサイトできました
 
 
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 週刊 モグラ屋通信 第68号 2003.5/15  

内藤です。いよいよスタートした 『木村崇人展 佐久島で地球と遊ぶ』 および連動企画の 『弘法巡り+アート・ピクニック』。 これがもう、企画した私たちが驚くほどにたいへんな好評をいただいております。島で道を歩いていると、これまでアートなんてなんだかわからん、ってポーズを取っていたおじいさんとかに「あれは面白いねぇ!」と話しかけられることがしょっちゅうです。「アートがこんなに受けちゃっていいんだろうか?」と、これまでの経験からかけ離れた人々の反応に、疑心暗鬼になるのは、きっと差別された現代美術の世界に永くいすぎて心がねじまがっているからだわ…。素直になるのよっ!
 
と自らを励ましながら、本日 『弘法巡り+アート・ピクニック』リポートを更新したので、読んでね。リポートにも書きましたが、木村崇人の作品は「男の子ごころ」(少年のこころ、と言ってもいいだろう)のツボにとてもはまるらしく、「もう、いい加減にしなさいよ、おっさん」という程に、島のおじさんたちを熱中させているのです。当然、本物の子どもたちも大喜びです。おじさんたちの話題の中心は、なんといっても崇運寺にある『ガリバーの目』という作品。「もしも自分が巨人になったら、風景はどのように見えるのか?」というのを、実際に体験できるのです。これがもう、センス・オブ・ワンダーといっても過言ではなく、これは私としては最高レベルの褒め言葉なの。
 
「こ、これは、幼少の頃に見たウルトラマンの特撮画面ではないか!」、「きゃ〜っ! 船がおもちゃ、木々が書割り、人がミニチュア、というか、動きが昔のアニメみたい!」――そういう感覚。これは、人によっては、簡単に体験できる視覚なのだけど、コツがつかめない人にはなかなか見られない。かくいう私もかなり難儀して見えるようになりました。不思議なことに一度ウルトラマン世界の見方を会得すると、次からはもう普通に見ることができるんです。木村によれば、それは「脳が学習した」ということらしい。おおっ、40になってもちゃんと学習してくれて脳よありがとう、って感じです。しかし、これが、さっぱり見られない人もいて、島民の中にはムキになって、『ガリバーの目』に通いつめている者もいる。それはたいていおじさんたちで、なんかもう、すごく楽しいできごとが生まれています。これはもう、体験してもらうしかありません。だまされたと思って、島に行くべし!
 
さて、ちょっとお知らせ。今年、学生のインターン・スタッフが、オフィス・マッチング・モウルでアート・マネジメントの研修をすることになりました。研修生は山口潤子といいます。今後、モグラ屋企画のさまざまな現場で、みなさまにお会いすることになると思いますが、どうぞよろしくお願いします。詳細は、 スタッフ紹介ページ をご覧ください。
 
現在進行形の仕事
三河・佐久島アートプラン21 『佐久島体験2003 祭りとアートに出会う島』 企画・制作/5月15日更新
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