Office Matching Mole on the Web/週刊モグラ屋通信 27



 週刊 モグラ屋通信 62号 2002.12/7  

内藤です。先日、静岡県の文化政策室というところが主催で開催された「文化政策セミナー」というのに行って来ました。正確にいうと、講師をしてきたんですね。セミナーの参加者は県下各自治体の文化政策とか企画課の方々、及び公共ホールの皆さんでした。最近の行政による文化政策の事例報告ということで、三河・佐久島アートプラン21と、長久手文化の家の2例の紹介です。長久手の方は、行政の担当者と、ホールを設計された名古屋大学の先生のチーム、佐久島は一色町の企画情報課の担当者氏と企画・制作をしているオフィス・マッチング・モウルの私が組になっての発表でございました。私と違って、人前で話すのが大好きな役所の担当者氏とのチームだったので、ちょっと気が楽だったかも…。今考えているアートと地域社会の関わり、そこからの可能性についてを、自分なりに話せたような気がします。いい機会を与えてくださった静岡県文化政策室のみなさまに感謝。
 
しかし、今年は一年が早かったです。特に後半が。そして、もう2002年も終わろうとしています。ということで、時々尋ねられるので、今年を総括する意味も込めて、これまでの仕事の活動履歴のページを作ってみました。で、改めて眺めてみて、ふたりして「お疲れ様でした」とねぎらいあってしまいましたね。それから、縁あって仕事をごいっしょさせていただいた皆さまに、心からの感謝を申し上げ奉ります。な〜んて、すっかり今年が終わったような調子でこれを書いている現在も、池田と私は、週明けの原稿締め切りに追われているのでした。私たちに明日はあるが休みはない。今しばらくは――。さて、仕事しよっ。
 
現在進行形の仕事
三河・佐久島アートプラン21 『佐久島体験2002 祭りとアートに出会う島』 企画・制作/栗本百合子展 開催中/12月7日更新
岡崎市シビックセンター 資料室(ジャズコレクション) 展示コーディネート/継続中
岡崎市シビックセンター 1Fエントランス(子どもワークショップ写真展) 企画・制作/12月15日まで展示中
 
 
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 週刊 モグラ屋通信 第63号 2002.12/16  

内藤です。佐久島で開催中の栗本百合子展 も、残すところ約10日となりました。遠方、さらに不便な交通にもかかわらず、たくさんの方々が訪れてくださっています。内藤、感激しております。12月28日まで、あとわずかな展覧会期間ですが、栗本百合子展を訪れてみよう、という方へ、この場を借りてささやかなお願い。栗本百合子作品は、佐久島島内三ヶ所に点在しています。アーティストは、これらの作品を制作するために何度も何度も島を訪れ、自らの足で島の隅々まで歩きました。ですから、佐久島における栗本作品をより深く知っていただくためには、アーティストがそうしたように、できるだけ自らの足で歩き、耳をすませ、眺め、さらにきょろきょろしたりぼんやりしたりして欲しいのです。そして、作品の中では、少しでも長い時間を過ごしてほしいのです。栗本百合子がそうしたように。極端に言えば、今回の作品を理解するのには、美術の知識よりも、そうした自らの体験の方が、ずっと、役に立つからです。美味しいものでも食べていってくれたら、なお好し!
 
経験至上主義のようなことを書くと、なにかと経験は乏しいけれど経験した気分だけはいっぱしの若造、もとい、若者には嫌われそうだけど、でもまぁ、知らないことを知る快感というのは、知らない屈辱を上回るものだと私は考えるのでとりあえず書いておきます。栗本百合子に限らず、佐久島で制作される作品には、都会で生活する人間には思いもよらない、厳然とした海辺の暮らしや自然の掟をふまえた意味、というものがあったりするのです。それらを理解するためのことばは、都市生活者の辞書には書かれていないし、当然、美術書のどこにも書かれていませんの、残念だったね。だから、美術作品を見慣れているからといって、島の自然や人々の暮らしを基調に制作された作品を、あなどってはなりません。
 
ちょっと角度を変えてみて、たとえば美術作品では、戦争とか人種差別とかまぁそういう社会問題が取り上げられることがあります。私自身は、「戦争」を経験していません。そりゃそうだ、63年生まれだもの。だけど、私は一応「戦争」に関する情報はいろいろ持っている。歴史の本の中でしか知らない古代の戦争から、自分の親も含めたさまざまな体験者から直接聞く機会のある第二次世界大戦まで。ベトナム戦争や中東戦争は、子どもの頃の大きなニュースの話題だったし、土曜日だか日曜日の夕方になると、他の家庭同様、父親がアメリカの戦争ドラマ「コンバット」に夢中になっていたものであり、そういうのを横目でながめながら育った。戦争反対とか思いながらも、戦争映画は嫌いではなく、先日もテレビで、かの名作「ナバロンの要塞」をもう何度も見ているにもかかわらず、やはり夢中になってみている始末だ。湾岸戦争までくると、まぁ、これを読んでいる誰の記憶にも新しいだろう。自分自身は経験していないけれど、情報だけはそれぞれがたくさん持っているもの、それが戦争――。そんな、それぞれの持つ情報に裏打ちされた「戦争感」で、戦争に対して言及された作品を、それぞれに解釈する。その場合「戦争」に関する知識や情報が皆無だとしたら、ありえないけれどもそうだとしたら、その作品を理解することって不可能なのですね。
 
同様にして「キリスト教」とか「アニメ」とかがあり、それを知っているからといって、作品を理解することとイコールではないのだけれど、知らないと始まらないことが、多々、あります。美術作品だから美術のことだけわかっていればいい、ということはありえないわけです。私の恥ずかしい経験の話をしましょうか。かつて東京で中村ケンゴさんの作品を見たことがある、と思いなせぇ。でね、真っ白なパネルにいくつもいくつも描かれていたのは、同じかたちで色の違うマークのようなもの。あの視力検査の時の輪っかの一ヶ所切れたようなものでした。私は「むむっ」と思い、その後、クエスチョンマークの嵐が頭の中を吹き荒れたのは言うまでもありません。そのマークがなんなのかは、画廊の方の解説でわかりました。それ、東京の地下鉄のサインだったんです。が〜ん。色が違うのは路線の違いだったのね…。その作品を見た時、私はその色違いの同じかたちが東京の地下鉄のサインだという情報を持っていなかった! うっかりお洒落な視力検査かと思ったわ! だから、作品の意味が全然わかりませんでした。哀しみと疎外感が記憶に残っています。ええ、ちょっとひがんじゃいました。後日、知人に「田舎者でもそれは常識の範囲内」と糾弾されたりして……。ある意味いい経験でした。
 
そうかと思えば、自らの企画したファン・デ・ナゴヤ美術展2002『仲介者たち』の小川信治作品「ミルククラウン」というのは、あれは並行宇宙の話で、SFの基礎知識がないと、わけわかんないと思われます。いや、ある種の物理学的知識でもいいのかもしれないけど、そんな方面の知識人っているのか(特に美術業界に)? 個人的には、並行宇宙ネタは50年代後半〜60年代生まれの人たちならば常識の範囲内じゃないか? なんて強引に考えたりするけど、これもかなり偏ってますね。「BT」で「社会とアートを知るための本」として『竜の卵』を紹介した私が言っても全然説得力ないですね。でもまぁ、私はそれを多少なりとも補うために、会期中の土日に、各2回ずつ、ギャラリーツアーと称した解説をしておりました。美術作品を理解するのって難しいねぇ。だから現代美術って、いつまでたってもマイナーなんだろうけど、簡単にわからないからちょっと近づいた時の面白さもまたあると思うのです。私のあずかり知らない情報がその作品の主要なテーマだったりした場合、私は、格好悪くもけっこう正直に「わからん」と言います。世代的に「さっぱりわからん」というのもありですね。10代の子たちの文化や、それをかたちづくる考え方をわかるって言いたくないです、さすがに。それは嘘だから。それをわかる人もいると思いますよ、同じ40歳でも。しかし希有なことです。もう、ほとんどありえないっていうか。だから10代の子たちは、私たちおばさん、おじさんに、ちゃんと歯向かわなきゃいけないのね。私たちが団塊の世代の人たちに、20年前から歯向かってきたようにね。あれ、話がディープ・スペースまでワープしている……。あはは。
 
でね、私たちって、戦争ほどには「島の暮らし」なんて知らないんです。そういう情報ってないんです。なくても生きていけるし。でも、あると、ちょっと世界観が変わることもあります。潮の満ち引きが生活を左右するなんてこと、考えられます? 島の暮らしって、そういうものなんですよ。価値観が揺るがされることがあるんです。小川信治の並行宇宙と同じです。少なくとも私は揺るぎました。同じ愛知県の、名古屋から車で1時間半の港から、目と鼻の先に見える島の人たちが、私たちの住んでいる土地を「本土」って呼んでるんです。沖縄じゃないんだから、って最初は思いました。島の存在それ自体が、私たちのものの見方に揺さぶりをかけてきます。作品は、アーティストがそれぞれに捉えた島を、私たちが追体験するための装置でもあります。だから、「戦争以上に知識のない島という存在」を知らないままで帰らないでほしいと思うのです。もし、そこまで訪れるならば。
 
今展の来訪者の特徴として、島でぶらぶら過ごす時間を楽しんでくださる方が多いということは、本当に嬉しいことです。そういう人たちは、作品とは全然関係ない面白さを見つけて報告してくださるのが嬉しいのよ。そういう報告の中には、作品を本質的に理解するための要素がけっこう散見されるのですね。だから、これから島を訪れる人には、大変な思いをしてせっかく離島まできちゃうんだから、ここでしかできないことをせいぜい楽しんでいってね、というのが、本日の私の主張なのでした。どっとはらい。長くてごめんなさいね。さて、この展覧会については、本日TOWN ART GALLERYの中で展覧会リポート美術遊覧 Vol.170 WESTで、紹介されています。さらに年明けには、某週刊誌(全国区の!)にも掲載予定なのですが、これは発売前に改めて報告いたしましょう。某週刊誌取材のライター、カメラマン両氏は、ともにひとつの展覧会場でほぼ3時間を過ごして作品に肉迫しておられましたよ。そんな取材と撮影姿勢に、感動すら覚えた私なのでありました。じ〜ん。しかし、その某有名週刊誌の誌名を佐久島の人たちに言っても、誰も知らなかったのでした。いや〜、書店のない生活とはこういうものかと、さらなる感動に打ち震えたのは言うまでもありませんっ。いっそ清々しいと思う也。
 
現在進行形の仕事
三河・佐久島アートプラン21 『佐久島体験2002 祭りとアートに出会う島』 企画・制作/栗本百合子展 開催中/12月16日更新
岡崎市シビックセンター 資料室(ジャズコレクション) 展示コーディネート/継続中
 
 
     
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